パイロットは、会社にもよりますが、確実に1年に1回はライセンス更新を行わないといけません。
特に、EASAの場合は、簡単に資格を失ってしまうようになっているので、せっかく得ることができたライセンスは更新しておく必要があります。
ということで、先日、保持しているタイプレーティングである、セスナ社サイテーションジェットのライセンス更新をオーストリアにて行ってきました。
ブリーフィング
ライセンス更新は「試験」というわけではなく、「確認」が大きなウェイトを占めていると思われます。
ですが、それなりに知識は問われますし、どのように対処をするかによっては、更新できない場合もあります。もしくは、追加トレーニングが必要と判断されれば、数日滞在が延びます。
そうならないためにも、自宅での事前準備が必要です。
さて、ブリーフィングルームでは、初めて会う試験官と自己紹介をしたり、どのような経歴があるのかを話したりして、少しリラックス。
その中でも、ちょこちょこと技術的な質問が入ってきたりします。
試験内容は大まかなことは言われますが、どのようなタイミングで、どのようなことが起こるのかは知らされません。
通常、エンジンが停止する瞬間などは予測できませんからね。
「組み込まなければいけない項目」というのはEASAの規定で決まっているので、それらの内容を伝えられますが、上記したように、いつ、どのようなタイミングで何が起こるのかは始まってみないと分からないようになっています。
軽く会話をしたり、ライセンスのチェックをしたり、大まかな内容を伝えられたところで、シミュレータへ。
ライセンス更新のための試験開始
始まってしまえば、あとは流れに乗って色々と対処していくことになります。
シナリオは無数にあり、今回僕が体験したシナリオは以下のようなものでした。
LOWS-LOWL ザルツブルクからリンツへ
ATIS
LOWS 290/05KT RVR 125/550m OVC 002 20/18 Q1003
LOWL 300/08KT 2000 BKN 020 OVC 055 20/19 Q1003
ATISを見る限り、離陸したら戻れない、という状況。
Dark Cockpitからのスタート。チェックリストの一番最初からやるシナリオのようです。
試験によっては、既にエンジンを始動している状態で始まることもありますが、今回はすべてを行うようなシナリオでした。
エンジン始動までは順調でしたが、エンジン始動後に「HYD FLOW LOW」が消えない。エンジンを始動させたら、消えるはずのものなんですけどね。
飛行機は、まだ駐機場にいて、動いている状態ではないので、チェックリストではなく「MEL」の確認をしないといけません。
「MELのチェックが必要です」と宣告すると、後ろで試験官が「OK。直りました」と言って、ライトを消してくれました。その後、チェックリストを行って、2つ目のエンジン始動。
滑走路に到達するまでは何も起こらず。それにしても、シミュレータの動きは気持ち悪くなりますね…
離陸許可をもらい、離陸のためにスロットルレバーをTOの位置にしたところで、目の前のPFDが真っ黒に。
V1になっていないので、すぐに離陸中止。フルブレーキで滑走路上で停止。タワーに離陸中止したことを告げる。
試験官から「OK。戻します。そのまま離陸開始して」と言われたので、滑走路の長さを確認したり、V1などのスピード表示を確認したりして、離陸再開。
サイテーションジェットのV1は大体95ノット付近。90ノットになったところで、機体が左に移動したなぁ、と思ったところで、左エンジンから火が出ていることを告げる「LH ENG FIRE」の赤いランプが点灯。
即座にスロットルレバーをアイドルにして、ブレーキ、そして機体を滑走路の真ん中に移動させるためにラダー操作。でもブレーキが効かない…。ブレーキのハイドロがやられたようです。すぐにハンドブレーキで停止。
エンジン消火のため「BOTTLE ARMED PUSH」が白く点灯したところで、押して消火剤をエンジンに送る。
「LH ENG FIRE」のランプが消えたので、消火できたことが分かります。
タワーに状況説明をしたところで、試験官から「OK。リセットするよ」と言われ、滑走路の端っこまで移動。
離陸準備を行い、離陸開始。
V1のコールがあったところで、飛行機が左に行こうとする。「ENG FIRE」のランプは光っていないので、何かしらの問題がエンジンにあったことを知ることができますが、気にせずにそのまま離陸。
上昇が確認できたところで、ギアアップ。
左エンジンに何かしらの故障があることをお互いで確認して、スピードをV2に設定して、上昇継続。400AGL過ぎたところでタワーと交信。
1500AGLになったところで、一旦水平飛行に入り、スピードをV2+10にして、フラップを上げて、スピードをVenrにして上昇開始。
オートパイロットを入れて、チェックリストを行う。タワーに空港の天気が回復したかどうかを確認。タワーからは「AIRPORT CLOSED」の一言が。
エンジン計器を見てみると、N1が全く回っていませんでした。エンジン再始動は危ないですね。
ということで、目的地であるリンツに行くことに決定。
早速リンツの天気を確認してみると、特に大きな問題はなさそう。
リンツではILS26シングルエンジンで着陸をすることに。
シングルエンジンアプローチのチェックリストをする前に、ILS26のアプローチを計器に設定。アプローチスピードも確認。そしてブリーフィング。
ブリーフィング最中に「ANTISKID INOP」のランプが。チェックリストを行うとランプが消える。そしてブリーフィング再開。
試験官から「FDとオートパイロットをオフにして」と言われたので、オフにして手動で操縦。
アプローチは特に問題なく進む。
ミニマムまできたところで、突然車が滑走路上に進入してきたので、ゴーアラウンド。
シングルエンジンゴーアラウンドを行い、上昇したところでシングルエンジンゴーアラウンドのチェックリスト。
空港は天気に問題がないので、ミスアプローチの通りに飛んで、ホールディングを1周行って、RNP/LNAV 26アプローチ。
EASAではIFRのライセンス更新の時にはRNPアプローチを1回行う必要があります。
VNAVは使用せずに、グラウンドスピードから算出される降下率をVSに設定して降下開始。
降下始まったところで、オートパイロットとFDを外すように指示が出たので、消して、アプローチ。
特に何も起こらず着陸。
滑走路上で停止して、離陸位置まで移動してもらい、もう一度離陸。
SIDは使用せずに、指示された高度とヘディングを飛ぶ。
離陸後に「ウィンドシア」があり、対処。タワーにリポート。
その後、水平飛行になったところで、トラフィック。TCASの指示に従い回避。
元の高度に戻り、レーダーベクターされ、空港が見えたところで「ILSにセットして」と指示が出たので、ILS26アプローチを設定。アプローチ許可が出たので、アプローチ開始。
高度が1000ftAGLを切ったところでエンジン異常。アプローチ中は、パイロットの判断により継続してもいいので、継続を選択して、必要なメモリーアイテムを行う。
速度をVref+10にキープして、フラップをアプローチの15度に戻して、アプローチ継続。
シングルエンジンで着陸して、滑走路上に停止したところで終了。
シミュレータに乗ってライセンス更新 まとめ
汗を流しながら、シミュレータでのライセンス更新が無事終了。
毎回違うシナリオで、色々と対処をしたりして勉強になります。
通常では起こる確率が低いことが多い項目ですが、起こらない保証はどこにもないので、こういうときにシッカリと復習できるのはいいですね。
また、次回頑張ろうと思います!
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